利用者の声

2022.08.16

Mさん夫妻(沖縄県西表島)滞在:約1ヵ月

■子どもを授かったことで、移住を決意

  2022年2月に、南阿蘇村お試し移住住宅が完成して迎えた最初の利用者は、沖縄県西表島からの移住を希望するMさん夫妻。移住を考えたきっかけや、移住において大切にしていること、お試し移住住宅を利用しての感想等を伺いました。

 熊本県出身の妻・くるみさんと、埼玉県出身の夫・わたるさん。2人は、自然の流れに近い場所で営む暮らしを求めてそれぞれのタイミングで沖縄県西表島へ。自然栽培の稲作に携わるなかで出会い、結婚して子どもを授かります。「そこから本格的に移住を考えるようになりました。もちろん、西表島でも周囲の大人たちに見守られてすくすくと育つ子どもたちを見てきたから、西表島で子育てをするという選択肢もあった。ただ、初めての子育てだから、身近に頼れる人がいたほうがいいのではないかと思って」と、くるみさん。

 一方わたるさんは、結婚前に熊本県に住む友人を訪ねるなどした経験があり、「いつかは熊本で暮らすのもありだなぁ」と漠然と思っていたのだとか。「食べ物はおいしいし、熊本弁はちょっとわからないけれど、人が温かい。自然の力が強い地域というイメージがありました」。

 こうして2人は移住先を熊本県に絞り、すぐさま具体的な行動に移していきます。

■自分の時間、能力、エネルギーを何にかけたいか? 自分たちの中心軸を見つめなおすことから考えた移住

 時間をかけて話し合ったのは、2人が大切にしたい生き方や暮らし方。「家賃やローンのために働くのは、なんだか違う」。「お金で解決する前に、自分の手をかける暮らしをつくり上げていきたい」。子どもが生まれてきたときに、どんな景色を見せられるだろう。そう考えるほどに、自然の循環の一部としての衣食住のあり方に、ますます意識が向かっていく2人がいました。

 イメージしたのは、小さな畑を耕しながら、日当たりと風通しのいい家で、自然に囲まれた時間を過ごすこと。考えを重ねた結果、子育て制度の充実度もふまえて夫妻が移住先の候補としたのは、南阿蘇村を含む3市村です。

■移住先は「住みながら決める」スタイルで

 候補地を決めた夫妻は、すばらしい行動力を発揮。なんと、大きなお腹を抱えて自家用車2台に荷物を積み込み、候補地のお試し移住住宅に長期滞在する「移住先探しの旅」へ出たのです。「行政的な制度には、3市村間に大きな差はないように思った」とのことで、あとは自分たちの目指す生き方を実現できる場所を自分たちの足で探せばいい、というシンプルな思考。「当たって砕けろ、くらいの勢いでした」と朗らかに笑います。インターネット環境があれば仕事ができるということも、後押しとなりました。

■お試し移住住宅で“いつもの暮らし”を体感。見えてきた、魅力と課題

写真上/野外劇場アスペクタ周辺にて。(写真提供/Mさん夫妻)

 滞在開始は2月下旬から3月中旬の約1ヵ月。冷え込みの厳しい日があるかと思えば、暑いくらいの日差しにびっくりする日も。「こういう温度感も、来てみないとわからなかったこと」。

 住まい探しでは、村の空き家バンクを活用して数ヵ所を内見。「新築よりも空き家(古民家)を活用したい」というのが、夫妻の考えです。「昔ながらの家には、その地域ならではの工夫が見て取れるように思います。新築より、地域の循環に寄り添える古民家が理想」と話します。

 インターネットで写真やデータを見るだけでは気づけなかった、日当たりや周辺環境等を確認できたことは収穫。しかし、ここぞという家には出会えなかったそう。「空き家バンクのサイトに登録されている家が少ないなぁとは思っていたんです。お試し移住住宅の近所の方から、空き家はあっても活用に至らない現実があることを伺ったので、持ち主の人と直接お話できるチャンスがあればとは思っていたのですが、そこまではできませんでした。とはいえ1ヵ月で見つかればラッキーくらいに思っていたので、見つからなくてあたりまえですね。引き続き探していきたいです」と、前向きなコメントをいただきました。

写真上/白川水源で水を汲む、わたるさん。(写真提供/Mさん夫妻)

 魅力という点で、特に水を挙げたのはわたるさんです。わたるさんは、東日本大震災のニュースを旅先のオーストラリアで知った際に、水について考えるようになったと言います。「いま普通に水のある暮らしをしているけれど……」。あたりまえに享受していたものが、いのちを育む大切な力であること。そう気づいてから、わたるさんの水に対する意識は変わっていきました。その点、南阿蘇村には火山と草原の恵みの象徴である水源を多く有する場所。滞在中は水源の水を汲んで活用されることも多かったと話します。

写真上/白水地区で行われた野焼きを見学。(写真提供/Mさん夫妻)

 地域行事に関しては、集落で行われたパークゴルフ大会と野焼き(2月下旬から3月にかけて行われる、放牧地としての草原や景観などを守るための地域行事)に参加。特に野焼きでは、地元民が火入れする様子を間近で見学。「貴重な体験になりました」と興奮気味に話します。地域住民の輪に交じって、楽しくも学びのある体験になったようです。

 仕事環境としては、お試し移住住宅にWi-Fiを整備しているものの、「家ではやる気が出ないタイプ」というくるみさん。村内にコワーキングスペースを見つけられず、車で30分ほどの距離にあるファミリーレストランにパソコンを持ち込んで作業していたとのこと。仕事をしながら長期滞在をしたいという方向けに、受け入れ側として活用できる施設を整備することや、その周知などが必要になってきそうです。

 滞在中の移動は自家用車。「どこにどんなお店があるのか、どのくらいの距離感なのかは、暮らしてみないとわかないことだから、とても参考になりました」。その中で、「村の生活には車が必須」という現実も実感することに。「年を重ねていった先の暮らしのことも、今から考えておかないと」と、検討事項に追加されたようです。

■大切にしたい暮らしを叶える場所探しを、これからも

 長いようでいてあっという間の1ヵ月を終えて、夫妻は次の候補地へと旅立っていきました。各地を巡りながら、暮らしを叶える場所を探すとのこと。初夏には出産も控えているので、「理想を言えばその頃には住む場所を決めたい」というのが本音。けれど焦らずに、「大切にしたい暮らしのイメージを描ける場所を探していきたい」と話してくれました。