利用者の声

2022.10.14

Mさん(埼玉県小川町)滞在:5月2週間

■住みたい場所から、やりたいことを考えたい

「今日は朝5時にお試し移住住宅を出て、杵島岳(きじまだけ)に登ってきました。昨日は仙酔峡(せんすいきょう)から尾根ルートで、高岳と中岳にも。烏帽子岳(えぼしだけ)ではミヤマキリシマがとってもきれいで……」。実際に来るのは初めてという南阿蘇村は、Mさんにとって興味を惹かれるものばかり。道の駅で購入したおいしい食材のこと、偶然出会った農家さんのこと。次から次へとエピソードが飛び出します。

Mさんは北海道出身。生まれはオホーツク地方の北見市で、育ったのは札幌市。大学卒業後は静岡県や東京都で社会人生活を送ってきました。ところが、あまりの激務に体調を崩してしまいます。2021年11月に退職し、翌年2月に友人のつてで埼玉県の空き家を借りて移住。取材をお願いした頃は、「住みたい場所」を探して自宅を拠点に全国各地を巡っている途上でした。南阿蘇村は、候補地のひとつ。

「いままでは、できることから住む場所を決めていました。これからは、『ここに住みたい』を基準にして、そこでできることややりたいことを考えるほうにシフトしたい」。Mさんはそう語ります。

■留学先で学んだ「行動すること」の大切さ

大学生のとき、オーストラリアに留学したことで「英語にのめりこんだ」と話すMさん。それだけでなく、価値観も大きく変化したようです。

幼い頃は「積極的で目立ちたがりだったのですが…」。成長するにつれ、自分を押し殺すようになっていったと話します。「周りの空気を読み過ぎた結果、なんにも言わなくなってしまった。自分が傷つくのが怖くて」。積極性を取り戻したいというのが、留学の大きな目的でした。

そんなMさんを激励してくれたのが、留学エージェント。「留学に行ったら自分が変われるなんてことはない! 行く前から変わるんだよ!」。留学までの期間、Mさんはボランティア活動などにも積極的に参加するなどして過ごし、いよいよオーストラリアへ。

現地の語学学校の課題(1ヵ月で何人の見知らぬ人に声をかけたかを競うもの)では、堂々のクラス5位。休学して農村地帯に滞在し、農作物の収穫の仕事に携わるなど、学校の外にもどんどん飛び出していきます。地元のサッカーチームの練習中に「混ぜてほしい」と飛び入り参加したり、長期旅行で知り合ったドイツ人と仲良くなったり。

そうして7ヵ月の滞在期間を終えるころ、「積極的になれてきたかも」という実感が、Mさんの中に芽生えてきます。いわく、「自分の魂をなんとか引っ張って積極的に振舞っていたのが、自分から動き出した。魂が自走を始めたみたいな感覚」。

■精神と肉体が健康なら、「小さな幸せ」を感じることができる

社会人となってからは、いわゆる「無難な生き方」をしてきたと振り返るMさん。埼玉県に移住してからは、菜園で野菜を育てることや果樹栽培にも挑戦。「北見市の祖父母は農家で、自分も小さいときにじゃがいも堀りを楽しんだりしていたな~とか。そういうことを、ちょっとずつ思い出してきました」。

いつの間にか心の奥深くに沈めてしまっていた宝箱の中に放り込んでいたものをひとつずつ取り出して、確認して。新しい知識や経験に触れて、感動して。そういう時間を得ながら、Mさんはいま、「自分は何が好きなのか」をあれこれ試している段階。

この先の移住については、「精神と肉体が健康でいられること」が大前提。「水がおいしいとか、星がきれいとか……。そういう小さな幸せを感じながら暮らしたい」。理想の暮らしのイメージを絵にしているとのことで見せてもらうと、星空と川、そこで子どものころから大好きだった釣りを楽しむMさんの姿が。別の絵では、山のある景色で農作業を楽しんでいるものも。

■南阿蘇村は、「住みたい場所」になれるか?

「住みたい場所」を求めて各地を巡っているというMさん。とはいえ、なかなか「ビビッとくる」地域とは出合えていないもよう。そんな中で、南阿蘇村にはどんな印象を抱かれたのでしょうか。

「自然環境がとても気に入っています。集落の中でも密集しすぎていなくて、田舎感があるというか。水源もいっぱいあって、予想以上に素敵でした。なにか『偉大なもの』がそこにあるような……それなのに都会(熊本市)までのアクセスもいい。バランスがいいなと」。

滞在中は地元の方とも積極的に交流。草刈り作業をしていたあか牛農家の方に声をかけたところ、ちょうど作業が終わる頃合いだからと放牧地にも案内してもらえたそう。「今朝生まれたばかりの仔牛がいて、お母さんが胎盤を食べているところでした。すごく面白かった!」。

道の駅では自然栽培の米や平飼い養鶏の卵、よもぎを練りこんだ蕎麦を購入。おいしさに感動し、生産者に直接電話をかけたりもしたそう。

一方気になったのは、運転。村内にはくねくね山道が多数。車幅が突然狭くなる、街灯が少なく夜道が暗いなど、運転には十分な注意が必要です。ところが、「けっこう運転が荒い……」。他の人の話もふまえて考察すると、これは南阿蘇村に限ったことではなく、県外の人の多くが熊本県の運転事情に対して抱く印象のようです。

■ここにいたい×やりたいこと

各地を巡る中で、「やってみたいこと」の輪郭も少しずつ明確になってきていることが話の中から伺えます。いま興味があるのは、農業やネイチャーガイド。料理も好きだから、レストランやカフェ、自家焙煎の珈琲…。総合して考えると、「オーダーメイドの宿泊業とか、いいな。でもそれはやっぱり、住みたい場所ありきで調整していくことになると思う」。

住民票を移すかどうかは別として、「南阿蘇村で何かやってみたい」というインスピレーションが湧いているそうです。

挑戦できる場所、住みたいと思える場所。Mさんが心から「ここにいたい」と思える場所と出合えますよう、応援しています。