vol.34

2024.08.07

中山 勇治さん【地域おこし協力隊】

クリエイティブな農に携わりながら、楕円に生きる

ものづくりに魅せられて

「洋服を作っていました」。泥だらけのシャツに汗をにじませ、メガネの奥の瞳をキュッと細めて、中山勇治さんは穏やかに振り返る。

ものづくり好きは、父の影響。ファッションへの関心から服飾の仕事を志した。「服のことしか考えられないくらい、没頭していました。こうしたい、を自分の手で形にできるところに、自己表現の楽しさがあったのかも」。

そんな中山さんが農に直接携わるきっかけのひとつは、結婚式を挙げたときのこと。「よくも悪くも、そこには自分の人生の縮図があった」。自らの足跡を残せる仕事とはなんだろう? 生き方を見つめ直すなか、辿り着いたのが農業だ。

店で購入した野菜を食べて、おいしいと思った生産者のもとを訪ね歩き、学びを深めていった中山さん。あるとき自然栽培の野菜を口にして、「感動しました! 味がしっかりしてて、おいしい」。食べ物を作るということに加え、農業を通して環境のことまで考えるという感覚も新鮮だったと話す。

「服は自分でコントロールできるけれど、農業は違う。お日様と土と水、そこに人の知恵が加わって成り立つもの。農業って、究極のクリエイティブなんじゃないか? って」。

見えないものを、見えないなりに

中山さんには座右の銘がある。それは「楕円に生きる」ということ。

たとえば、慣行栽培と有機栽培。都市暮らしと田舎暮らし。相反する価値観を前にしたとき、一方が正しく他方は誤りと判断してしまいがちだ。けれど実際は、それぞれによしあしがある。「ひとつの正しさを求めない。矛盾する価値観の間を行ったり来たり思考を巡らせることで、それぞれの良さを活かしながら就農や定住という目標に向き合うヒントを得られるのかもな、と」。

価値観を点として考えてみよう。矛盾する点のいずれか一方を選ぶなら、その周囲に描かれるのは真円だ。そうではなく、もう一方の点も丸ごと包んでしまおうというのが、中山さん流。2つの点が近づいたり遠ざかったりする(思考を行ったり来たりさせる)ことで描かれるのは、不規則に伸び縮みする楕円ということになる。

緩やかな円のなかでさまざまに思考を巡らせつつ、確たる結論を出さない。見えないものを、見えないなりに。ありのままに受け止めて、自らの内で育もうとする中山さんのおおらかな生き方は、とてもやさしいものに思えた。

【写真説明】
1. 協力隊業務で水田除草中。外輪山を眺めながら。
2. 初めて作った米で土鍋ごはん。
3. 研修先で収穫したラディッシュ。「野菜の扱い方を学んでいます」。
4. 村内をフラッとドライブして出合った絶景。
5. 五ヶ瀬町の茶畑へ。村外でも積極的に活動。

インタビューしてみての感想

地域おこし協力隊ヒトコト録(2024年3月発行)より転載。

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