旅は人を成長させ、 世界を平和にする
渡邊賢司さんは根っからの旅人だ。物心つくかどうかの頃には親戚の家に一人で遊びに行き、小学1年生で飛行機一人旅を決行。海外の子どもたちと交流し、中学生のときには「将来は中国に留学しよう」と決めていた。もちろん、中国滞在中もチベットを訪ねるなどして、渡邊さんいわく「原始的な旅」を楽しんだと話す。
「いまの時代、正解はネットにあったりする。けれど実際に体験して冒険するのが、自分は好き。いつもと違う海に飛び込んでみる感覚」。携帯電話もネットもほぼ使えない旅だからこそ、コミュニケーションが不可欠。飲食店で現地の人と同じものを食べてみる。思いがけないトラブルを乗り越えるために、偶然行き会った仲間と協力する。飛行場からホテルに行くためにタクシーに乗るだけでも大冒険だ。知らない世界を、知ろうとする。その積み重ねのなかで、渡邊さんは「同じ人間どうし」という実感を培ってきたそうだ。
「旅は世界を平和にする」。渡邊さんがポツンとこぼした言葉は、渡邊さん自身の生き方を象徴しているように思う。旅先で出会った人と共有するのは、ほんの短い時間。けれどそれが「よい出会い」であったなら、旅の後どんなに時間が流れたとしても、大事な贈り物として残り続けるだろう。「それは、自分を一歩前進させてくれるエネルギーになる。『あの人たち元気にしているかな』とか、考えたりもするでしょ」。ふとした心の交流が、人の柔らかい部分を揺さぶる。そんなつながりがたくさん生まれたなら、世界はもっと優しくなれるはずだ。
2021年に渡邊さんがオープンさせたグランピング施設には、そんな渡邊さんなりの旅のエッセンスが散りばめられている。なんでも揃っている快適な場所ではなく、自分の頭と身体を使ってちょっとした挑戦ができる場所。
「家ではお手伝いしない子どもが、ここに来れば自分から何かやりたくなる。特別なことに思えていた焚火や薪割ができたら、自信が生まれる。知ることで成長につながる」。今後は、火起こしや正しい車中泊の仕方を実地で学ぶ防災キャンプや、気軽に参加できるチャリティーイベントの開催なども視野に入れているそうだ。
経験とは、生きる力。それを磨きより多くの選択肢を自分に提示できるようになることが、人間的な成長なのかもしれない。