vol.22

2023.03.13

長澤 静香さん【地域おこし協力隊】

10代で東京に飛び出した長澤さん。さまざまな経験を携えて戻ってきた故郷の姿は、それまでのネガティブなイメージを払拭してくれた。自分と地域。2つの軸を、心地よいほうへ。

東京から、熊本へ

子どもの頃からものづくりが大好き。手づくりの洋服を販売し、夜遊びに繰り出しては「面白い大人」の話にワクワクを募らせていた10代。「熊本には、やりたいことがない」。そう思って、東京に飛び出した。

服飾専門学校を卒業し、十数年。刺激的な東京生活は、とても充実していたという。しかし、好き勝手な生活を重ねた結果、身体が少しずつ悲鳴を上げ始めた。「ただ生きているだけなのに、ケアが必要。なんだかな〜って」。思いきって食生活や運動習慣を変えてみた。するとどうだろう。「身体が気持ちいい」。長澤静香さんにとって、それは大いなる発見だった。食への興味が、作り手への関心になり、さらにはその食を育む地域へと思考が深まっていく。次第に、農的なものごとに携わりたいという思いを強くする長澤さんがいた。

帰郷した長澤さんを、熊本は、かつてとは少し違う表情で迎えてくれた。「食べ物がおいしい。面白い人がたくさんいる。景色も最高!」。農的な暮らしを模索し、週末には農家バイトへ。太陽の下で汗を流し、「これだよこれ!」と、気持ちは一直線に農へ傾いていく。ついには、山都町のイチゴ農家に研修に入るまでに。その頃にはすでに、南阿蘇村で農業と観光を柱にした生業を持とうと決めていた。

自分軸と地域軸を育てる

研修を通して、農業の厳しさや難しさに直面した長澤さん。それでもブレなかった。気持ちを支えたもののひとつはきっと、地域という軸だ。

長澤さんは地域おこし協力隊着任前から、農業公社の取り組みに触れ、「環境と景観を守る農業」のありかたに深く共感したと話す。村内を見渡せば休耕地が増えつつあり、高齢化や人手不足の影は色濃い。そこに、環境・景観保全の考え方を組み込むことで、できることがあるのではないかと考えているのだ。「たとえば、高齢の農家さんのところに行って、農業機械作業を代行する。ハウスのボイラーに使う化石燃料を一部、バイオマスに転換してみる。農薬を減らしてみる」。長澤さん自身が少しずつ実践し、「面白そうだなって、興味を持ってくれる人がひとりでも増えてくれたらうれしい」。

無理を強いれば、歪は大きくなる。長澤さんはそれを、実感として知っている。だから「まずは自分が基本」。自分を大切にして、心地よく生きられる要素を求めていく。そのエネルギーが自然と外へ向かい、いつしか共感の輪が広がっていったなら、その先に地域の新たな可能性が拓かれるかもしれない。

【写真CAP】
1.南阿蘇村の「村感」が気に入って、「ここで農業をやりたい」と思ったのだそう。協力隊として活動することで、「イチゴ栽培だけでは扱うことのなかった農業機械についても学べます」と長澤さん。写真は、管理機の使い方を教わっているところ。

2. 自宅の庭で、羊毛をマルチに使ったイチゴ栽培に挑戦中。

3.15年暮らした東京は、「もうひとつの地元」。

インタビューしてみての感想

地域おこし協力隊ヒトコト録(2023年2月発行)より転載。

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