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熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字河陽1705番地1

農家

2024.10.20

吉田 洋樹さん・千芳子さん

吉田 洋樹さん・千芳子(ちほこ)さん

洋樹さんは熊本県人吉市出身。2022年8月、地域おこし協力隊新規就農プロジェクト着任。2024年3月退任。収穫した野菜を生で食べるのが好き。

千芳子さんは熊本県氷川町出身。2022年3月、地域おこし協力隊新規就農プロジェクト着任。2024年3月退任。猫が好き。

写真/夜峰山を背にする吉田夫妻。

 

 

2人はともに南阿蘇村地域おこし協力隊「新規就農プロジェクト」の隊員として約2年の任期を経て、2024年4月、新規就農を果たす。大豆、ネギ、小麦、サツマイモなどを有機栽培している。冬期は、焼き芋屋としてイベント出店も。
農園ベルの樹
南阿蘇スイートポテト
※取材日(2024年8月)時点の内容です。※南阿蘇村の就農支援については、こちらを参照ください。

それぞれの転機。農家を目指して南阿蘇村へ

南阿蘇村で「就農を目指す」地域おこし協力隊、新規就農プロジェクトの募集を始めたのは2022年。そして2024年、初めての「卒隊生」が、南阿蘇村で新規就農を果たした。吉田洋樹さんと、妻の千芳子(ちほこ)さんだ。

2人はともに、南阿蘇村地域おこし協力隊「新規就農プロジェクト」の1期生。
洋樹さんは会社員時代に「食」への興味を深め、自らが「日本の産業を支えるひとり」となることを決意。宮崎県のとある有機農家で研修した後、地域おこし協力隊の道へ。農業によって形成される村の景観にすっかり惚れ込んで、「この景色を守れる立場になれることを誇りに思う」と語ってくれた、着任間もないころが懐かしい。

一方の千芳子さんは、海外勤務の経験から日本の農業や食について学んだ。本格的な就農を見据えて帰国したところに、村の地域おこし協力隊の募集がかかり、農業の実務経験はないままに着任。ほぼ素人の状態から、地域おこし協力隊の業務を通して技術や知識習得に励んだ。

地域おこし協力隊員として南阿蘇村で出会い、結婚した2人。着任当時から現在に至るまで共通しているのは、環境保全型農業(有機栽培や自然栽培)を目指し、実践していることだ。

*2人の地域おこし協力隊時代の話は以下に掲載しています。
吉田洋樹さん https://minamiasoijyuu.jp/interviews/p=10188/
吉田(鈴嶋)千芳子さん https://minamiasoijyuu.jp/interviews/p=10187/

 

地域おこし協力隊を経て新規就農

雄大な阿蘇五岳の裾に広がる、田園風景。多くの人を魅了する美しい風景は、しかし、「あと何年見られるだろうか…」という不安と隣り合わせにある。農業者の高齢化や離農が進み、耕作放棄地は増える一方なのだ。

村が、新規就農を目指す地域おこし協力隊の導入を決めた大きな理由も、新たな「農業の担い手、風景のつくりて」を育成したいと考えたからこそ。地域おこし協力隊として着任した吉田夫妻(当時は結婚していない)は、南阿蘇農業みらい公社(以下、公社)を拠点に、村が抱える課題と向き合い、学びを深めていった。

公社では、村内の耕作放棄地を預かり、米や蕎麦、ニンニク、ゴマといった露地作物の栽培を中心に行っている。新規就農プロジェクトの隊員の主な仕事のひとつは、これらの耕作地の管理。業務のなかで、農業機械の操作方法や栽培について学ぶ。自分たちで育てた野菜は公社を通して道の駅やイベントで販売。消費者のニーズを探り、売り方を模索する。

上/みらい公社では2024年から夏野菜の栽培と販売を始めた。

加えて、「師匠」と仰ぐ現役農家の元での研修も重要(村内に限定されない)。「有機や自然栽培で農業を営むには、いかに付加価値をつけていくかが大切。七城町の師匠のやり方を真似させてもらっています」とは、千芳子さん。海外資材にできるだけ依存しないという師匠の方針にも、深く共感したのだとか。

洋樹さんは村内と大津町、2人の師匠の背中に学んだ。その感想をひと言でいえば、「作物に対する愛がすごい! 仕事の一つひとつに理論と哲学がある」。

師匠たちとは新規就農を果たしたいまでも交流があり、「気にかけていただいて、本当にありがたい」。きっと、研修期間中の2人の農業と向き合う一生懸命な姿勢を評価されてのことだろう。

上/地域おこし協力隊員のころの様子。独立を見据えながら、協力隊業務に走り回った2年間。

南阿蘇村で就農を目指す方法は大きく2つ。ひとつは、農業研修生受入協議会へ加入すること。もうひとつが、地域おこし協力隊新規就農プロジェクトの一員になること。
細かい差異はあれど、各種助成金や研修制度など基本的には同程度のサポートを受けることができる。どちらかといえば施設栽培(ハウスでのトマトやアスパラなどの栽培)に力を入れているのが前者であり、露地栽培に力を入れているのが後者。地域おこし協力隊として学びながら栽培作物を絞るにあたり、希望すれば農業研修生受入協議会への転向も可能だ。

吉田夫妻の場合は、地域おこし協力隊としての任期を全うして「認定新規就農者の資格」を取得(営農計画に基づいて審査される)。営農計画の実行に必要な資金調達には「青年等就農資金」を活用した(計画の実行性があるかを金融機関などから厳しく審査される)。

地域おこし協力隊ならではのメリットは、業務の一環で管理を任された圃場を、退任後も貸してもらえる場合があること(県公社では農地バンク制度がある)。そしてなにより、「地域おこし協力隊として『頑張ってきたやつだ』という信頼の土台があること」と洋樹さんは言う。  

ひとつ言えるのは、地域おこし協力隊であるか否かは関係なく、地域の人たちと交流を深めともに汗を流してきたからこそ、吉田夫妻は多くの人に祝福され、期待されて、農業者となったということだと思う。

大変だけど、おもしろい。
2人だからできる魅力的な農業を目指して

就農したてでいそがしい毎日を送っている吉田夫妻だが、「自分たちがやってみたいと思う農業を実践できるのが、すごく楽しい。やりがいがあります」と、気力は充実している様子。「南阿蘇村の風景、すごくいいじゃないですか。だから、耕作放棄される土地があるのは、もったいないなって。就農したての自分たちが言うのはおこがましいかもしれないけれど、自分たちにできることがあるのなら、やれるだけやってみたい」。そう言って、笑みを交わす2人。できるだけ地球に負荷をかけないやり方を模索し、南阿蘇村の風景を守る農業者でありたいと、思いを語る。

そのためにも、「 『おいしい』と言ってもらえる作物を作ること」。ごくごくシンプルな目標を、ひたむきに追い求めていく2人。そのさきに、理想も、現実の経営も、地域の風景においても、「結果」がついてくると信じて。

1.草刈りに追われる夏。ネギの生育は順調のよう。
2.「ネギにいいのは、空気を含んだふわっとした土で…」と、2人が説明してくれる。

メインで栽培する作物のひとつ、サツマイモを手にする2人。洋樹さんは、サツマイモの一大産地である隣町、大津町の農家で研修を受けた。苗を挿す角度が違うだけでサツマイモの生長サイズが変わってくるのだとか。

1.自宅の庭で、ささやかな家庭菜園。
2.ミニトマトを収穫。
3.愛猫も一緒の古民家暮らし。

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